広島高等裁判所 事件番号不明 判決
主文
本件控訴は之を棄却する。
理由
弁護人博田一二の控訴趣意第一点について。
要するに本件押麦は被告人が会社(笠岡製粉株式会社)の取締役社長として買入れたものではなく、個人として会社従業員の労に酬いるために買受けたものであるにも拘らず、原審は被告人が会社の社長として買受けたものとして会社の業務に関して買受けたものと認定して居るのは事実を誤認しているものであると謂うのである。然しながら原判決は被告人が右会社の業務に関して、本件押麦を買受けたと謂うことは認定しているけれども、被告人が会社の取締役社長としての地位において、換言すれば会社を代表してその業務執行の一部として之を買受けた趣旨のことは云つておらないのである。原判決が「被告人は賀茂郡竹原町所在の笠岡製粉株式会社の業務一切を統轄していたものであるが」と冒頭に判示して居るのは、単に被告人と右会社との関係を説示したものに止まり、社長として本件押麦を買受けたことを判示した趣旨でないことは原判決を通読して明らかなところである。而して被告人は個人として之を買受けたものではあるけれども、その目的は会社の従業員の労に酬い、以て従業員を励まし、延いては会社の成績も挙げることにあり、その会社に対する被告人の関係は取締役社長ということであると謂うのが原判示の意味であり、原判決に証拠として挙げてある原公判廷での「当時は輸入食糧の仕事が多くて忙しく昼夜連続して仕事を頼んでいたので、そのため工員の腹のためにも、又仕事をしてくれればそれ丈け作業能率を挙げることにもなり会社の利益も多いから工員に無償で分けてやつた」旨の被告人の供述によりこの間の事情は判然しているのである。即ち簡単にいえば工員のためを思つてしたことであり、その工員というのは被告人が社長をしている会社の工員であるから結局会社の為を思つてしたことになるという関係である。そして原判決はこのような関係を以て物価統制令第十一条但書に所謂「業務に関し」と謂うに該るものと解しているのであつて、この解釈は正当であるといわねばならない。